第8話　

　私と渡辺直熙はもう何の関係もない。

　他人のプライバシーを覗き見るのは失礼だと思い、私はしょんぼりとその場を離れた。

杏奈の元に戻り、私が最初から最後まで守りたいのは、ただ杏奈だけだった。

　しかし、数日後、渡辺直熙が杏奈を連れて行くと言い出した。

　やっぱり、彼の性格からして自分の子供をそのまま放っておくはずがないと思っていたけど、それでも私は不安だった。

　田中清音が杏奈を大切にしてくれないのではないかと心配だった。

　それに、昔ネットでこんな話を見たことがある。父親というのは、実は子供に対して特別な感情を持たず、ただ母親を愛しているからこそ子供も可愛がる、いわゆる「愛屋及烏」だというもの。

　でも、渡辺直熙は私のことを好きじゃない。彼が杏奈のことを好きになるなんて、到底考えられなかった。

　私は焦ってどうしようもなかった。

　他に方法がなく、私は彼の夢の中に入ることにした。

　いつもは身だしなみに気を使っている渡辺直熙が、ひげを伸ばしたままで、少し違和感があった。

　「優花、君が去ってからこんなに長い間、一度も夢に来てくれなかった。どうしてそんなに冷たいんだ？」

　それはこっちのセリフだよ。君だって私を探しもしなかったじゃない。私が死んだことさえ知らなかったんでしょ。

　いや、違う。今回は、彼に杏奈を連れて行かないように説得するために来たんだ。

　「杏奈を山田瑞臣のそばから連れて行ってはいけない」

　渡辺直熙は苦しそうに言った。「どうしてだ？妊娠していたことも、子供が生まれたことも教えてくれなかった。今度は私と子供が一緒になるのを妨げるのか？」

　「杏奈はあなたとの生活には慣れないわ。それに、いずれ田中さんと結婚して、あなたたちには子供ができるでしょ。今は三人目の政策もあるし、少なくとも三人は生めるじゃない」

　渡辺直熙は自嘲気味に笑った。「優花、何を言っているんだ。他の人と子供を作れって？」

何が「他の人」よ、あの幼馴染の田中清音じゃない。

　ほら、男ってそういうものよ。こっそり楽しんだ後、飽きるのも早いんだから。

　「何度も言っているだろう？私は田中清音とは何の関係もないんだ。もし関係があるなら、どうして君と結婚したんだ？」

　私は信じない。

　スキャンダルの説明を求めたこともあったけど、彼はそれを拒んだ。たぶん